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仙台高等裁判所 昭和29年(ネ)622号 判決

控訴人

高橋進

被控訴人

石河久吉

外三名

主文

原判決を左のとおり変更する。

別紙(省略)図面記載(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ロ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた地域は控訴人所有の福島県伊達郡小手村上手渡字摺臼田山十二番山林五畝二十六歩(実測面積一反五畝二十九歩)であることを確認する。

被控訴人等は連帯して控訴人に対し金二万四千八百三十九円四十六銭及びこれに対する昭和二十七年二月十一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の連帯負担とする。

この判決は控訴人が右金員の支払を命じる部分につき金五千円の担保を提供するときは仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

登記簿上控訴人主張の十二番山林(以下単に十二番山林と称する)はもと斎藤才三郎の所有であつたが、大正九年二月四日控訴人がこれを買い受け、同日その旨の登記を経由したこと、登記簿上控訴人主張の十三番山林(以下単に十三番山林と称する)はもと高橋兼蔵の所有であつたが、明治三十年一月二十五日同人から石河久四郎へ、大正十年四月十五日同人から石河キクへ、昭和六年九月十日同人から右久四郎へ、昭和七年三月十六日同人の死亡により家督相続した被控訴人信衛へ、昭和二十五年一月二十八日同人から被控訴人孝一へ順次その所有権が移転され、それぞれその旨の登記を経由したこと及び右両山林の境界が別紙図面記載(ロ)、(ハ)の各点を結んだ直線であることは当事者間に争がない。

控訴人は十二番山林の範囲は別紙図面記載(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ロ)の各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた地域(以下甲地域と称する)であると主張するのに対し、被控訴人等は甲地域は十三番山林であり、十二番山林は別紙図面記載(イ)(ロ)(ハ)(ト)(チ)(リ)(E)(F)(イ)の各点を順次直線で結ぶ線で囲まれた地域(以下乙地域と称する)であるといつて争うので、先ずこの点につき判断する。

成立に争のない甲第一号証の二(地元村役場備附図面)、当審における控訴人本人尋問の結果(第二回)により成立を認め得る甲第六号証(地元部落備附図面)、第十二号証(福島地方法務局川俣出張所備附図面写)と原審及び当審における検証の結果によると、右各図面には控訴人主張のとおり甲地域が十二番であり、乙地域が十三番であるように記載されていることが明らかである。それなら被控訴人等のいうごとく十二番が乙地域であるとするためには右各図面の十二番と十三番の地番が実地と誤つて逆に記載されているものとしなければならない。ところが右各図面はいずれも公図と目されるものであり、ことに右控訴人本人尋問の結果によると右甲第六号証の図面は明治前の作成にかかる極めて来歴の古いものであり、右甲第一号証の二の図面も明治二十年代の作成にかかるものであることが認められ、また右各図面を見ると十二番、十三番は隣接地番との関係において順序よく記載されているのであつて、これらの点よりすれば右各図面の記載を否定するだけの信憑力のある図面その他有力な反証のない限り前記地番の記載を動かすことはできないものといわなければならない。しかるに被控訴人等提出の全立証をもつてすれば、前示のごとく十三番山林の所有権が石河久四郎から石河キク、被控訴人信衛等を経て被控訴人孝一まで順次移転される際その実地が甲地であるとして譲渡され、石河キクもその所有当時である大正十二年頃甲地域の杉立木を伐採しそれで新宅を建築したことがあること、昭和初年頃控訴人が甲地域の立木を伐採しその跡に杉苗の植林をした際、被控訴人石河家側から同地域が石河家の所有である旨抗議したことがあること、その後昭和八年頃及び同二十一年頃控訴人が甲地域に生立する雑木を他に売却伐採したため被控訴人信衛が所轄駐在所に告訴する騒ぎがあつたこと、その間十三番山林の各所有者が時折甲地域の手入をしていたこと、以上の事実が認められはするが、右事実はいずれも前出甲第一号証の二、第六号証の各図面作成日時後のことにかかり、殊に成立に争のない甲第二、三号証と当審証人石河キクの証言を綜合すると、十二番山林は明治二十三年十二月二十二日から大正九年二月四日まで当時の所有者斎藤才三郎から前認定の十三番山林の所有者である石河久四郎に質入され、その間十二番、十三番は久四郎により占有管理されていたことが認めらるのみならず、被控訴人等挙示の証拠によれば十三番各山林の前記各所有者等はその地番を念頭に置かず実地についてのみことを運び、附近山林所有者等も本訴に至るまで同様地番のことを問題にしたことがなかつたことも窺えるのであつて、それなら前記図面の作成後なんらかの機会において十三番山林の関係者が同山林の実地を甲地域と思い誤り、そのことが延いては被控訴人側の前示のような十三番山林を甲地域とする前提の一連の行動を招いたものとも考えられ、右のような事実からだけでは前出各図面の十二番と十三番の地番が作成当時誤つて逆に記載されたものとはとうてい認め難い。その他に右各図面の十二番、十三番の記載に誤りがあることを首肯させるに足る証拠はない。以上によれば前出各図面の前記地番の記載は一応現地に則したものと見る外はなく、それなら他に反証のない本件においては十二番山林の実地は甲地域であると認めざるを得ないから、十二番山林が控訴人の所有である以上甲地域は控訴人所有の十二番山林であるといわなければならない。しからば被控訴人等は十二番山林は乙地域であるといつて争つているのであるから、被控訴人等に対し甲地域が控訴人所有の十二番山林であることの確認を求める控訴人の請求は正当として認容すべきである。

次に控訴人が甲地域に杉苗を植え、被控訴人等が控訴人主張の頃その杉立木を伐採搬出したことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第五号証の一、二と当審における控訴人本人尋問の結果(第一回)によれば被控訴人等が甲地域より伐採搬出した立木は杉立木百七石一才(二百七十本)のほか桐立木六・七才(一本)、その頃の価格にして合計二万四千八百三十九円四十六銭であることが認められる。そして前認定のごとく甲地域が控訴人の所有であるとするなら、被控訴人等においてこれを伐採搬出する権限を有することにつき他に主張立証のない本件においては叙上説明の経過から見て被控訴人等は少くとも過失に基き控訴人の所有と認めるべき右立木を伐採搬出し、これに対する控訴人の所有権を侵害し、よつて控訴人に対しその価格に相当する損害を蒙らしめたものというべきで、その価格は反証のない限り前記二万四千八百三十九円四十六銭と見るべきである。それなら被控訴人等は控訴人に対し連帯して右損害金二万四千八百三十九円四十六銭及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和二十七年二月十一日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるといわなければならないから被控訴人等に対し立木の伐採搬出による損害金の支払を求める控訴人の請求は右の限度において正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。

以上と認定を異にし本訴請求の全部を排斥した原判決は右認容の限度において不当であり、変更を免れない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条、第三百八十六条、第九十六条、第九十二条、第九十三条、第八十九条、第百九十六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井義彦 上野正秋 兼築義春)

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